(2)治療法の真偽判別

基本的スタンス  
 科学の体系はネットワーク構造を形成している。他の法則や理論と無関係で、孤立した法則や理論というものはあり得ない。既に確立している科学的事実と整合的でなければ、間違った科学か、ニセ科学といえる。逆に言えば、他の法則や理論と整合性がある場合は、正しい可能性が高い。
 分子生物学によって、生命現象は生体分子機械といわれるタンパク質分子が機能することによって進行する、ということが明らかにされて久しい。機械である各タンパク質分子がすべて正常に機能しているならば健康であり、正常に機能していなければ病気ということになる。正常範囲を逸脱したタンパク質分子の機能を正常化することが治療であり、正常化した状態が治癒ということになる。どの治療法であろうが、タンパク質分子を無視して病気を論じることはできない。当然、ここで扱う磁気治療や量子医学は、タンパク質分子との関係性によって論じている。ところが、磁気治療や量子医学を称しているが、タンパク質分子と無関係であり、有効性があるはずもない「ニセ医学」が横行している。あらかじめ、それらを判別しておかなければ、治療理論の本命である「量子磁気医学」がニセ科学扱いされかねない。 

 現代医学では病気という現象を十分に制御できず、副作用などの問題を解決できない。それは現代医学に重大な間違いがあることを示している。現代医学をこのままにしておくことはできない、そのような不都合が生じない医学理論を確立するべきなのである。ニセ医学は、タンパク質分子や量子力学と無関係であるから認められない。それでは、分子生物学においてタンパク質分子を扱っている現代医学を否定しなければならない理由とは何か。

 生命現象を進行させるタンパク質分子は、骨格構造と官能基からなる複合分子である。官能基において化学反応が進行するが、それを制御しているのは骨格構造における「構造相転移」という物理変化である。この相転移という現象に対して、量子力学が直接的に関与しているのである。現代医学の基礎理論である分子生物学では、このメカニズムを扱うことができないために、病気の即効的完治や副作用を排除することができない。量子力学に基づいて、熱や磁気によって骨格構造を制御すれば確実に完治可能となる。不完全な治療しかできない現代医学を科学的に正しいとすることはできない。ゆえに、否定されなければならない。 

 このブログや電子書籍に書いていることを理解するためには、分子生物学、生物物理学、物性物理学、量子力学などと、科学研究の論理や方法に関する、科学哲学や科学論といわれる書籍の知識が必要である。ニセ医学に騙されてはならないが、同時に、天動説のように間違った科学である、現代医学にも騙されてはならない。執拗にニセ医学批判を行っている医師たちはポピュリストである、信頼してはならない。

 

 

量子力学と生命
 ボールをそっと床の上に置けば静止状態となり、放り投げれば連続的な軌道運動をする。それが、我々が日常見ている力学である。ところが、ミクロの世界ではその力学は通用しない。物質としての性質を持つ最小単位は分子であるが、さらに分解していくと、原子、陽子、中性子、電子、光子、ニュートリノなどに分けられる。原子以下の大きさの粒子では、粒子としての性質と波としての性質を併せ持っており静止することはない。それらの粒子はトビトビの値しかとることができないので、現象は連続的に変化することはない。電子のスピンや励起状態相転移など、ミクロの領域に特有の現象が現れる。

 それまでの物理学では説明することができない現象であり、それらの粒子を「量子」と呼んで、新しい物理学が構築された。それが量子力学であり、現代物質科学の基本法則である。量子力学に特有の現象は「量子効果」と呼ばれる。ちなみに、量子力学確立以前の物理学を古典物理学、確立後の物理学は現代物理学と呼ばれる。

 原子核の周りを電子が周回するが、電子の軌道は原子核の構造によって決まる。原子と原子が結合して分子を形成すると、周回する電子の軌道は原子の結合状態によって決まる。つまり、分子は原子と電子から構成されており、電子の軌道は原子の結合状態によって決まる。原子・電子は量子であるから粒子と波としての性質を併せて持っている。生体分子機械といわれ、生命現象を進行させるるタンパク質分子の構造や機能は、量子である原子や電子の振る舞いによって明らかに明らかにできるのではないか。それが「量子生物学」という分野であり、医学への応用が「量子医学」ということになる。ここでは、タンパク質分子を中心として病気と治療を論じていく、物理的性質があまり問題にならない遺伝子については扱わない。

  
磁気治療とはいえない変動磁場治療
 「磁気治療」をインターネットで検索すると、パルス磁場による経頭蓋磁気刺激療法(TMS)や交流磁気治療器が上位に表示される。これは電磁気学的にメカニズムが説明されている治療法である。神経細胞や筋細胞の活動は、タンパク質分子が電気信号によって制御している。パルス磁場や交流磁場から誘導電流を生じさせて、神経細胞や筋細胞の活動電位を高めることができれば、制御機能の低下しているタンパク質分子を刺激することになり、神経系や筋肉が活発化するということだろうか。薬物療法であれば、タンパク質分子と結合するのであるから、直接的な制御といえる。この治療法は、タンパク質分子を直接的に制御するものではないことに違和感がある。
 細胞には、いろいろな機能を持つ多数のタンパク質分子が存在する。誘導電流は、電気的制御に関わる一部のタンパク質分子には有効であろうが、それに関わらないタンパク質分子の異常を正常化することはできないだろう。それでは神経細胞や筋肉細胞全体が正常化することにはならない。ましてや一般の細胞に電流刺激を加えても、どれほどの効果があるのかよくわからない。
 そもそもこれは磁気治療とはいえない。生体に作用しているのは磁場ではなく誘導電流であるというのに、磁気治療と呼ぶことはおかしな話である。中学生でも分かるようなこの程度のことが、いつまでも訂正されない。磁気治療というのであれば、生体に対して直接的に磁場が作用していなければならないだろう。そのためには磁力が変化しない静磁場を加えるべきなのである。

 

 

「振動医学」や「波動医学」は、ニセ量子医学 
 分子生物学によって、病気はタンパク質分子の機能異常によって起きることが明らかになっている。タンパク質分子が機能を発現するためには特定の立体構造でなければならない。分子薬理学では、大部分の薬物はタンパク質分子表面の官能基と結合して機能を調節する。すると薬物療法以外の治療法もタンパク質分子に作用していると考えられる。つまり、病気という現象はタンパク質分子において起きる、ということを特定していない医学理論など有り得ないのである。
 「振動医学」や「波動医学」を称する治療法がある、内容はほぼ同じであるが「量子医学」と称している場合もある。タンパク質分子とは全く関係性がない治療理論であり、「ニセ量子医学」として統一しておこう。それらは科学的根拠がなく、治療効果も期待できない。振動という現象はマクロでもミクロでみられる現象であり、量子においてのみに起きる現象ではない。量子力学を応用する治療法であるならば、量子力学に特有の現象である「量子効果」といわれる現象が現れるはずである。振動と共鳴ということだけが強調され、「量子効果」はほぼ無視されている。

 人体も物質から構成されているので、分子を原子以下の大きさに分解すれば量子効果が現れてくる。量子力学が支配するミクロのレベルで見ればすべての物質は振動している。ところが、「ニセ量子医学」では、量子力学に基づいてすべての物質は振動しているのであり、細胞や臓器レベルにおいても固有振動数がある。その固有振動数で細胞や臓器を共鳴させれば治癒させることができるという。固有振動数を調べる波動測定器や、固有振動数で共鳴させて治療する「波動発生器」という製品が販売されている。しかし、分子よりも大きな臓器や細胞レベルは量子ではないので、量子力学が適用される階層ではなく量子効果が現れるはずもない。明らかに拡大解釈であり、たとえ脳波や心電図のような振動が見られたとしても、原子・電子レベルの振動とは大きく異なる。


 反対に、原子や電子よりもさらに小さな粒子であるニュートリを生体と相互作用させれば免疫系や自然治癒力が高まるという「量子波治療」もあるらしい。ニュートリノは量子ではあるが、極微で軽く、物質とほとんど相互作用することなく、あらゆる物体をすり抜けてしまう。宇宙からは常時無数のニュートリノが降り注いでおり、我々の体を貫通しているが、人体には何の変化も起きない。そのような粒子が生体分子機械であるタンパク質分子と共鳴して機能を正常化することなど有り得ない。ニュートリノは恒星や宇宙空間、加速器などで発生するのであり、量子波発生装置というもので簡単に発生させることなど不可能である。

 テラヘルツ波を発生させて照射するという治療法もあるらしいが、タンパク質分子とは関係ない治療法である。後述するが、タンパク質分子が電磁波に反応するとすれば、骨格構造においては遠赤外線領域の電磁波であり、周回する電子に対しては近紫外線領域の電磁波でなければならない。振動数が異なるテラヘルツ波領域の電磁波が照射されても、共鳴現象は起きない。
 また、異常な振動数を正常な振動数に戻すためには、逆位相の波動を加えればよいという考え方もあるらしい。逆位相波とは、元の波に対して、周期が半分ずれる位相を持つ波のことである。それを加えれば、山と谷、谷と山が重なるので打ち消し合って振れ幅がゼロになる。その状態になれば健康を回復するということらしい。しかし、振れ幅ゼロの波とは、音波の場合であれば無音ということであり、生命活動においては死を意味する。これでは治療にはならない。
 振動数に変化があるならば、同時に粒子に変化があるはずである。粒子の位置とか、粒子の結合の形、エネルギー状態、などに変化があれば、物質としての性質などに変化が生じる。状態ごとにそれぞれの振動があり、振動を元に戻すということは、同時に粒子の状態を元に戻すことでもある。粒子の状態と振動は切っても切れない関係であり、一方だけを制御することはできない。
 振動と共鳴ということだけを根拠として、人体と万物は同調する、といってしまうと、何でも波動医学ということになってしまう。また、量子力学の不思議な現象を、物質ではないスピリチュアル(霊性)に結び付けることは、科学を逸脱することになるので論じる必要もない。これらは患者たちを納得させるための意図的な虚偽理論であり、目的は治療費や治療機器を購入させることにある。いずれも量子力学とはいえないウソばかり、患者たちが信じ込むならば、理論の真偽など、どうでもよいのである。

 ここに例示した以外にも、いろいろな量子医学があるようだが、「ニセ量子医学」に共通する特徴として、生体分子機械といわれるタンパク質分子と関係がない。また、量子力学に基づいているかのように見せかけているが、量子力学に特有の現象である「量子効果」に基づく正しい説明ができない。量子医学とは、生体の機能を量子効果によって制御することである。量子効果が見られないのであれば、そのような治療法に有効性があるはずもなく、これまで流布していた「量子医学」は、すべてニセ科学といってもよい。しかし、「量子医学」がすべてニセ科学ということではない、本物の「量子医学」が存在するのである。それが、タンパク質分子を熱や磁気によって構造相転移させて、機能を制御する治療法である。

                                 (3)に続く

 

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